2008'07.07.Mon
level.43
色んな一歩があって、
簡単にヒョイッと軽々踏み出せることもあれば、
どうしても踏み出すことが出来ない一歩もある。
何故か?
そして。踏み出した後、振り返ってみれば、
ヒョイッと軽く踏み出したハズのものが実際は、凄く辛くて困難で、傷つきボロボロの姿になってしまってた…とか、反対に、
躊躇って躊躇って…途方もない時間を費やしてようやくその重い一歩を物凄い決心をして踏み出したハズなのに実際は、案外何でもない一歩だったりする。
色んな一歩がある。
大抵の後悔は大方経験済だとか思うし、だからこれからは踏み間違えないとかも思いつつ、それでもまた、
同じ過ちを繰り返したりもしている。
でもそれは、以前経験した後悔とは全く違うものであって、むしろ自分を好ましく思ったりする。
同じようであっても違うのだから。
その違いに気付けた自分と、そして、後悔によって出来た恐怖や不安を乗り越え、再び踏み出すことが出来た自分を褒めてやっても良いんじゃないのかと。
ぐだぐだそんなことを考えてたらもうこんな時間。
ここんとこ毎日、
睡眠時間+食事時間+移動やその他モロモロ雑務時間(トイレとか着替えとか風呂とか)
=仕事時間。
写真とか絵を描いたりとかインドとか英語とか…そんな自分の趣味の時間や、
これから先の自分の未来に繋げて行くための現実的なモロモロ雑務等のことをする時間が殆どありません。
今日、何とか先ほど1個、動いてみたけどね…やれやれ。良い返事が来ると良いなあ~。
色んなものを消耗していくばかりで、前に進んでいるどころか後ろに下がってんじゃないかと不安になったり苛々したりばっかだけど、
ほんの些細な一歩でも何とか、その日その日踏み出せていられたらいつか、随分進んでいたもんだと思えるんじゃないかなと。
明日も早出…。今日は結局、追い出されるまで会社で残業ですた。ボロボロってかドロドロになってポストを見たらば、ピラリと1枚、黒猫の置手紙が…。
電話掛けようにも勿論、黒猫さんの営業時間は終了~。すんません。
明日、朝一で電話しま。ジャガー、今すぐ持って来い。すんません。
つうか…。
朝一の時間も際どい。黒猫、もっと長時間働いて欲しい。オマエさんたち以上の時間を会社にいる人もいますから。でも会社に持って来いとは言えない…すんません。
ジャガー…オマエさんを拝める日はいつになるか分かりませぬ…。
代わりにたてぶえ、ピュ~と吹き鳴らします。(騒音妨害…何をやっても救われない)
携帯のアラームがうるさい。止めておけば良かった。折角の有休で、しかもこんな遠いところまで来てんだ。俺はモゾモゾと手探ると放られていた携帯を掴み、見向きもせずそのままアラームを切る。が、アラームは鳴り止まない。
「んだよ~」
部屋に設置されている黒電話がけたたましく鳴っていた。俺は這って電話の傍まで行くと受話器を持ち上げる。
「…はい?」
まだ目は開かない。意識も体も半分以上眠ったままだ。声もガラガラに掠れていた。そんな俺にキシザワの怒鳴り声が飛び込んでくる。
「タロー!今、モジャのヤツから連絡があった!」
俺は思わず受話器を離す。思わずそのまま切ろうとした程だ。ようやく眼を薄っすらと開き、掴んだままだった携帯の時刻を見る。朝の5時半…。グシャグシャと寝癖だらけの頭をかき混ぜた。
「昔、ムラサキはその島に行ったことがあるそうだ。しかし今オマエがいる中心部ではなく、島の西の端の端にある小さな村だそうだ。おい、聞いているか?もしもーし!」
「…何でそんなにテンション高いんだ?」
未だに声はガラガラだ。
「寝てなんていられるか。ただこの話はもう10年近く昔の話だそうだから今もその村があるかすら定かじゃねぇ。タロー、あとは頼んだぞ!今すぐ向かえ!」
「ちょ、ちょっと待て。今何時か分かってっか?朝の5時半だぞ?此処とオマエのいる場所、もしかして時差あったりする?」
本気でそう思った。
「バカか!?俺のいる場所もオマエのいる場所も日本だ。ジャパンだ!モジャ野郎は南米だ!じゃあな!!」
ガシャンと大きな音を立てて一方的に電話は切られる。俺は暫く受話器を見つめていた。あの切り方は携帯では出来ないな…。店に置かれていたこの受話器と同じ黒電話をボンヤリ思い出していた。キシザワのヤツ、あれからずっとあの店に、ハルタの傍にいるって言うのか…?チンと音を鳴らして受話器を戻すと俺は大あくびをした。今から二度寝をしたら…キシザワにどやされる。ま、携帯が通じないのでこちらからの連絡以外、コンタクトの取りようもないのだが、俺は無理矢理体を起こすと、ふら付きながら支度をした。とにかく風呂だ。
島民の朝が早くて助かったと言うより、この島は老人ばかりだ。当然この宿の店主もジイサンで、通常のホテルならば聞き入られないチェックアウトをすんなり了承してくれたし、その村のことも丁寧に教えてくれた。この島の地図まで引っ張り出してきて印をつけ俺にくれた。良かった。今もまだヒッソリとだが村はあるらしい。ただ交通手段が車以外にないとのことなのでタクシーも手配してくれた。何度もお礼を言う俺をにこやかに何度も頷いて見ていた宿のジイサン。昨日から薄々感じていたのだが、この島の人々は皆、優しい。ちょっと話しかければ、しっかり立ち止まって俺の話を真剣に聞いてくれる。せかせか一目散に歩いているビジネス街では想像もつかないことだ。まず時間の速度が違う。
宿の前の小さな花壇の縁に腰掛けてタクシーを待っていると、宿のジイサンの奥さんであるバアサンがおにぎりを持ってやってきた。朝ごはんの準備が出来なかったお詫びにと。本当に有り難かった。そう言えば物凄く腹が減っていることに気付いた。こんな朝っぱらから食欲があるなんて信じられなかった。ムシャムシャがっついている俺にバアサンは笑いながら茶も差し出してくれる。ニワトリやスズメの声だけが聞こえる静かな朝靄の中で、俺のクチャクチャ食べる音だけが何だか場違いのように感じていた。
タクシーの運ちゃんは、この島民にしては若かった。と言ってもオジサンだけど。結構賑やかな人で、色々勝手に話かけてくる。「あげなヘンピな場所に行くげな兄ちゃん、人生にでも疲れたがや~」あっはっは~と1人で笑っている。「まぁ兄ちゃんくらいの歳は、色々あんがな。しっかり踏ん張りっしゃい」どうもと俺が言うとまた、あっはっは~!と笑う。腹も膨れて恐ろしい程俺は眠い。タクシーでも2時間は掛かるというので俺は少し眠らせて貰う事を本気でお願いすればピタリと静かになった。良い運転手だ。街中のオッサン共より余程KYを心得ている。
ハルタやキシザワが待っているあの街は、埃や排気ガスが慢性的に充満し、加えて未だに梅雨が明けず曇空が続いていたが、南の果てにあるこの島は、シャワシャワと蝉や何かの鳴き声で溢れていた。窓の縁に頭をつけ、ボンヤリ流れる景色を眺める。まだ早朝の朝の太陽の光が、どこのネオンよりも眩しく新緑の木々の間を縫って降り注ぎ、キラキラと輝いていた。
世界はこんなにも眩しかったんだ。
ぼんやりそんなことを思いながら俺は瞼を閉じた。
不意にタクシーは止まり、エンジンが切られたので俺は意識を浮上させる。頭をボリボリ掻きながら周りを見渡すと、
「あ、起こしてしもうたがや~。ちょっと休憩。何か飲むかえ?」
シートベルトを外し、運ちゃんが振り向く。休憩!?何だ、ソレ。対応できずボンヤリしている俺を放って運ちゃんはサッサとタクシーから降りた。俺も慌てて外に出る。見れば小さな日本家屋のようなものがある。真っ直ぐ運ちゃんはそこへ向かっていた。俺も後を着いて行った。
「お~い!バアサン、生きてっが~!?何か冷たいモノ飲ませてくんろ~!2人だぞー!」
ガラリと勝手に玄関を開けると運ちゃんは叫ぶ。オイオイ…。返答を待たず、勝手にズカズカと入っていく。オイオイ!
玄関の先はずっと土間になっており、その先を行けば中庭に出た。その縁側に腰掛けると持っていた扇子を開きパタパタと扇いだ。
「兄ちゃんも座り~。それかずっと座りっぱなしやったしちょっと体を動かす方がええがか~?」あっはっはーと意味もなくまた笑っている。呆気に取られて俺は突っ立っていた。
「珍しいな。客か~?」
声がし、顔を向けると小さな老婆がお盆に麦茶のグラスを乗せて奥から現れた。老婆はチラリと俺を見る。反射的に俺も会釈した。
「ほうほう。今度は若い兄ちゃんかえ~。立て続けに珍しいこっちゃ」
その言葉に俺は縁側へ駆け寄る。
「まさか、俺より前にも誰か来ましたか!?もしかしてこの人?」
シャツの胸ポケットから俺はクシャクシャにくたびれた店長の写真を取り出した。老婆は眼を細めてじっと見つめていたが、
「あんた、ムラサキちゃんを追いかけて来たんかえ~?いやはや、相変わらずムラサキちゃんは、ようモテんしゃる」
ホホっと老婆は笑った。やった!ついに手がかりをみつけた!
「そうです!そうなんです!お婆ちゃん、この店長…あ、いや、ムラサキさんご存知なんですね!?」
うんうんと老婆は頷く。
「知っているも何も…。ムラサキちゃんは私の孫のようなもんじゃからのぅ~。もう何年も前になるかの、あん子がフラリ、ここにやって来たのは。ついこの間のようじゃが~」
「バアサン、ボケちまったがや!?ムラサキちゃんならつい先日、俺が連れて来たやろが?しかし驚いたな~兄ちゃん、ムラサキちゃんば、探しに来たんかえ?てっきり夕日を見にきたんかと思っちょったがや~」
「ゲンさんはすぐに早とちりする癖を直した方がええ~」
マッタリ繰り広げられる会話に俺は苛立つ。
「それで今、ムラサキさんは何処に!?」
「ああ、兄ちゃんの目指しちょう西の果てにおるがや~。車であと30分も走れば着く」
「それじゃあ早く行きましょう!」
立ち上がり俺は急かすような仕草をした。そんな俺をにこやかに2人は見ている。
「そう急かしなさんな。大丈夫、ムラサキちゃんは逃げたりせん」
「実際、逃げたんですよ!あ、逃げたって言うか何て言うか…とにかく突然いなくなって皆凄く心配してるんですからー!」
「兄ちゃん。待つことも時には大事なんよ?分かるかえ?」
「分かりません!もう、良いです。タクシーお借りします!!」
俺は踵を返し、タクシーへ走った。
「良いけど、この先は道が細うなっちょうよ~!気ぃつけんしゃい~!」
運ちゃんのノンキな声を背に俺はタクシーに飛び乗った。
※盗んだタクシーで走り出す~♪タロちゃん、犯罪ですよソレ…。
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