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cesta 07

かいしんのいちげき

2024'05.21.Tue
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2008'10.17.Fri



level.45


「ジーサンがヤバイ。帰って来なさい」

電報のような姉の電話に、出勤の支度をしていた私は、頭をボリボリ掻いた。

「ちょっと、聞いてるの!?」

ああ…ハイ。ボンヤリ答えた私に「着いたら電話して。駅まで迎えに行くから」と一方的に切られた。


ジーサンは生きてます。そして私は自分の居るべき場所へ戻って来ますた。

休み明けから丸2日休んでしまったので明日(ってか今日)仕事に行くのがコワイ…。


こーゆー時…。

近かったらなと心底思う。まぁ、自分で選んだことなので誰にも何も言えないし、家族も今更「なら帰って来れば良いじゃない?」などと簡単には言わない。帰って来られても困る歳なのだ…。


朝っぱらから喚いていた姉は、次の日(今日ってか昨日)は、フツーに会社に行っているし、結局は病院に任せるしかないし、病院にはカーサンとカーサンの妹がいるし、何だかソワソワして結局はトーサンと2人で家で待機。ってなワケで…。

そんなトーサンも「何かあったら電話しろ」と近所の寄り合いに行ってしまうし…。

何、やってんだろうと、実家で自分のベットの次に自分の居場所だと勝手に決め込んでいるお気に入りのリビングのソファーにダラ~とするだけ。

でもこうして。

やたらめったらデカイこの家の、そしてムダに広いリビングに1人いるのは本当に参りますた。


ドアの傍にある、いつ鳴るか分からない電話にビクビクしながらボンヤリ天井を見つめていると、何だか本当に悲しくなってきて…。悲しいってか寂しいってか、不安ってか…何だか幼い頃、学校から帰って来ていつもいるハズのカーサンがいなくて(ただの井戸端…)アタフタした時のような…気持ち。

自分の子供がいても全く可笑しくない歳なのに、何をガキのようなことやってんだ!?と思いもしたけど、でもジーサンはヤバイし、仕事もヤバイし、同じ立場のくせにネーチャンは会社行ってるし、私は休んでいるし…。


いつ戻れるんだろう…。どうして私はココにいるんだろう…。ジーサンの葬式を待っているのか…。




いろ~んなことがグルグル回って、疲れたのかいつの間にか寝てますた。

何気に気配で眼を開ければ、
「あ、起きた」
姉が覗き込んでいて、思わずガタッと体が反射的に動いてしまいますた。逆から覗き込まれた顔は、いくら私が生まれた時から傍にあった顔だとは言え、マジで怖い。

知らない人ってか、人間の顔だと判断できない…(※ホントです。やってみて)


「ジーサン、持ち直したってよ」

昨夜はマジでヤバくて、病院に泊り込んでいたカーサンから電話があったようだけど、特急電車で2時間以上かかる場所で1人、必死に立っている日々の疲れと、今回の急な非日常の疲れが重なって電話に気付かず…。

あんなに脅えていたのにっ


時計を見ればまだ夕方だったけど、心配になった姉が家に帰って来てくれてたのだ。

「トーサンは?」

姉が言うので「近所の会長さんち…」とそれだけ答えれば、何だか涙が出てきた。

覗き込んだままだった姉は、眼を丸くしたけど、何も言わずに私のオデコを撫でてくれますた。


「アンタに任せちゃってごめんね」と。


姉は凄いなと思う。私が生まれたその瞬間から自動的に姉になり、そしてちゃんと「自分は姉だ」と1秒たりとも忘れずにそして、ちゃんとその運命を受け入れてずっと生きているのだから。

私には下がいないので分からないけど、だからこそ余計、凄いなと思った。

だって、姉は、何一つ、謝る必要なんてなかったのに、私が勝手に寂しがって不安がってそして姉の姿を見て安心して勝手に泣いたのに、何も言わずにそんなあまりにも自分勝手でわがままな「妹」の心情を掬い取ってくれる。


「ジーサンとこ、行く?」

会長さんちに電話して、トーサンに伝えた後、姉は振り返って言った。こくりと頷いた私に姉はニッコリ笑った。


病院からそのまま駅に行き、私はまた2時間以上かけて非日常から日常の世界に戻ってきたワケですが、

私が生まれた時から私の傍にいるのが当たり前だった「家族」とのやり取りが非日常で、こうして家族の知らない1人でいる世界が日常だってのが何だか可笑しな気もするのだけど、

まぁ、自分で選んだ道だ。それに今回は緊急の帰省だったワケでもあるし…。



帰省が全て、楽しいモノではないと言う事はちゃんと私の「マニュアル」に載ってあります。

過去に幾度も経験をしているから。だから今回も寝ぼけたままボリボリと頭を掻いたりしたワケだけど、今回の内容は、そのマニュアルに対応できるものではなかった。

だから凄く辛かったし、とてつもなく疲れたけど、

姉がいるって良いもんだなと久々感じ、新たな項目として付け加えられたのはまぁ…

良かったかなと。


「頑張らないように頑張りな!」

駅で私を降ろした姉は、そう叫ぶと私の返事を聞かずにそのままサッサと去ってゆきますた。

いつもいつも一方的で。
ボンヤリノンビリマイペースな私にいつもいつもキリキリ言ってて、たまには鉄拳どころか足まで飛んでくるのだけど、

姉が居てくれて本当に良かったなと思う。







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