2009'05.05.Tue
level.47
暇で気を緩めた時に起こってしまった仕事のトラブルと、
プライベートの数々の始動で。
すっかり忘れていた。
「…もしもし」
あわ~。不機嫌極まりない声だよ。
「お誕生日、オメデトウゴザイマス」
「…どうも。ま、別に嬉しくもない歳ではあるけどな」
親友であり戦友でもある双子のような同い年の幼馴染みの誕生日ですた。
「なんかさ、歳取る度に一年が早くない?ってか『あ~、もうすぐだ~』とは思ってたんだけどね、それが4月末だったのね。『あ、もうちょい先だな~』と余裕こいてたのね、そしたら…」
あ~分かった分かったと私の「言い訳」を不機嫌な声で遮られたけど、それでも上から被せて、
「ごめん。タダ単に忘れてしまってたのね…」
「別に良いって。めでたい歳でもないんだから」
しかも…。
慌ててTOPに載せた画像、昨年の誕生日に描いたもので「使い回しちゃえ」と思ったは良いものの(良いのか?)昨年2008年の日付を入れちゃってたよ…。
全然反省していない。
この前。
サーカスを一緒に見に行った以来、お互い何だかんだと忙しく、全く連絡を取っていなかったのだけど、でもそれでも別に構わなくて、そして今年は誕生日すらも忘れてしまったという、その事実に少なからず罪悪感は感じたし、そして焦ったし、そして何気にチョッピリ寂しさも感じたのだけど、
でも冷静に考えると…
単に近所の幼馴染みであり、そして滅多に実家に帰らない私にとっても、そして同じく私なんかがいない地元で彼は彼なりの世界があって、そしてその世界で私と同じようにそれなりに色々あって、何とかやっていかないとならないそんなそれぞれ別々の日常の中で、
こうして必ず毎年誕生日の祝いの言葉を律儀に贈るってのは…
反対に何だかおかしなことなのではないだろうか?ともふと思ったりもする。
土日祝日が基本休みである仕事に就いているコイツも、今年は何だかんだで毎日出勤しているらしく、ぶっちゃけ自分の誕生日を忘れていたとボソリ言ったりもしていた。
だからやっぱり、別に私が罪悪感やらを感じることも無いってワケなのだけど、
でもやっぱり、
毎年毎年当たり前の「儀式」のようになっていたこの習慣を忘れてしまっていたと言う事は、
何だか悲しい。
まるで自分の誕生日を忘れていて気付いた時は既に次の日になっていた…てな気分だった。
「今年は行くのか?」
どーでも良い世間話のようなお互いの近状報告をしていると不意にそう言うから何のことだと一瞬、言葉が出てこなかったのだけど、
「ああ、うん。その予定」
「そうか…。オヤジさんとか家族には…勿論言ってないよな、その調子だと」
「…ああ~うん」
「そうか…」
「うん、そう」
暫くお互い沈黙してしまったけど、でも顔は見えなくても別に全く都合が悪いわけでなく、むしろその沈黙はお互いにとってとても大切な時間のように感じた。
「俺から言っても良いけど?」
考えた結果がそれですか。それでも何も答えず黙っている私に、
「そうだよな、余計なお世話、だよな」
「余計ではないけど、タダ単に言いたくないだけ。知らない方が良いって事が私の世界には沢山当たり前にあるのだ」
「何だそれ?」
昔は。
お互いのことは何でも知っていた。お互いが話さなくてもそれぞれの家族やら友人やら…そんなルートから自然と知ってしまう。そんな関係だったのに、
気付けばいつの間にか知らないことが沢山出来てしまっていた。
「ちゃんと帰って来いよな」
「そのつもり」
「つもりじゃダメだ。ちゃんと約束しろ。それが今年の俺の誕生日プレゼントってことで」
「…出来ない約束は出来ない」
はぁ~と溜め息が聞こえたけど、聞こえないフリをして黙っていると、
「相変わらず頑固だよな、チビッコの癖に」
呆れたような諦めたような…そんな声で言われたけど、それには何も言わず私は、
「手紙を書くよ」
それだけ言うと、はっと掠れた笑いが聞こえた。
「いらない。帰って来てちゃんと話をすれば良い」
「…そうするつもり」
行くなとは絶対に言わない。だけど、絶対に帰って来いと言うことだけはどうしても譲ってくれないその口調に、頑固な私もつい、頷きそうになるのだけど、でもやっぱり、
出来ない約束は出来ない。
自分の分身のような特別な存在であるコイツにだけは嘘はつきたくなかった。
自分に嘘をつきたくない…。自分を必死に信じようといつももがいている私にとってコレだけはどうしても私も譲れなかった。
だからつい。こんなことを口走ってしまった。
「アンタのことだけは何があっても誰が何と言おうとも私は絶対信じる。だからアンタも私のことを信じて欲しいと思うのだけど…」
長い長い沈黙。いつもはポンポンとバカみたいでそして口の悪いことばかり出てくるのだけど、今日は沈黙ばかりだった。
「分かった…。信じるよ」
隣にいるのが当たり前で、いつもセットのようにあしらわれていた時間よりも、私が家を出て1人、全く別の街で別々に過ごしてきた時間の方が長くなっている今、
お互いの存在をぶっちゃけ忘れていることばかりで、でもそれでも全く滞りなく私の日常は平常で。
だからお互い知らないことも沢山あって、何かの拍子に知ったりするとビックリしたりもするのだけど、
でも別にそれも「ああ、そうだよね」と当たり前に受け止められるようにもなっている。
そんな関係である今、お互いの事を
「信じる」ってのはとても困難なことかもしれない。人づてに聞いた風の便りを信じてしまうかもしれないから。
少なからず私は自信がない。
でも。それでも。
私たちだけの間でも今まで色んなことがあって、そしてお互い傷つけあったりもしたし、「おい、アレ」とかでも何のことか分かるくらいだったハズなのに、一晩徹して話し合ってもどうしてもそれぞれ両方が納得出来る答えを導き出すことが出来なくて大人である彼の方が飲み込んで受け入れたってなことだってあったのだけど、
でも。それでも。
ずっとずっといつも変わらず私に接してきてくれたコイツだけは絶対に裏切りたくないと言う気持ちだけはホンモノだと言い切れる。
「ところで今度はいつ帰ってくんだ?」
いつもの声でそう言われて、今考えている日程を伝えれば、
「了解。BBQだな…」
お前の頭の中は肉のことしかないのだな。
結局は。
誕生日で主役であるコイツの欲しがっていた「確かな約束」なんて1つも答えることが出来なかったのだけど、でも頑固でワガママな私の性格をウンザリするほど知り尽くしているコイツはそれ以上は何も要求せず、根掘り葉掘り何も聞いてこなかった。
どんな環境で。どんな人たちに囲まれて過ごしているのかなんて何1つ知らないのだけど、
でも昔から嫌と言うほど知っているってのは便利だなと思う。
いつもごめんね。誕生日のお祝いをするつもりだったのにこっちのワガママを聞いてもらうことになっちまった。
最後にそう言うと、
「何を今更。ってか、素直すぎてキモイ」
性格を知り尽くしているってのもどうかってこともあるな。
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